このブレンドが浮かんだのは、
季節外れに訪れた鮫の海岸でのこと。
「砂浜、あしあと。」
・ ローズマリー ・・・ 2 ・ ジュニパーベリー ・・・ 3 ・ パチュリ ・・・ 1 ・ ベチバー ・・・ 1
その風景はまるで音楽のようで、絵画のようでした。
計算しつくされたかのような曲線を描く波の跡、
その上を楽譜のように走る足跡、
うっすらとベールをかけたような霧と、白い空に番った海と。
霧雨と砂のにおい。
時間が止まったみたいでした。
あぁ、この感じを香りにしたい、と思いました。
海にのこるのは、波音。
砂にのこるのは、足あと。
空に続くのは海。
傘を鳴らす、雨の音と、
あたたかい手。
そんな景色を、香りに。
「海のしずく」の名前を持つローズマリー。
すぅっと染みとおるような香りは、
全体的に重めなブレンドに、紗のかかったようなほどよい透明感を与えてくれます。
ローズマリーの花言葉は「思い出」「記憶」。
古いフィルムに焼きつけたような景色にぴったりです。
ジュニパーベリーは、霧に濡れた松林から漂う空気。
八戸の海の、海岸に沿って針葉樹が並んでいるところがとても好きなのです。
ちょっぴりほろ苦いジュニパーベリーの香りは、
疲れた心を霧雨みたいに洗い流して、静かに、クリアにしてくれます。
水墨色の風景を、そのまま閉じ込めたみたいなパチュリ。
心の迷いや、乱れを落ち着け、自分の軸をしっかりと持たせてくれるような香りです。
波も空も風もぜんぶが、あるべきところにあってまったき、
ばらばらに見える足あとさえも調和のなかにあるような、落ち着き。
「静寂の油」とも呼ばれるベチバーは霧雨に濡れた地面。
地に足をつける、グラウンディングの代名詞とも言われるこの精油。
足元を見つめて、振り返ってみると足あとが軌跡を描いていて、
これからも続いて・・・そんなイメージが浮かんできます。
このときね、
お年を召したご夫婦が、仲むつまじく海岸を散歩していて、
その様子もとても、素敵だったんです。
お二人が歩くうしろに足あとができて、 それが、まるで人生の足あとみたいで。 霧みたいに静かで、やさしくて。
静かな霧雨の海。
穏やかな足取りで、歩いて行けそうな香りです。
(初出:2015.5.2. rewritten&archived:2019.9.1)
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