年越しのころになると
「新しい年の干支が、東の空を飛んでいく」イメージと香りが浮かびます。
2014午 「あまかける」
2015未 「そらとぶひつじ」
2016申 「ふうせんにのって」
2017酉 「夢のヒヨコ」
2018戌 「日々にもどる、冬」←例外
2019亥 「風と、くるり。」
ねずみはね、ふたり連れでした。
このイメージはきっと、
昔話「ねずみのよめいり」のおよめさんとおむこさん。
昔話なので
いろいろなパターンがあると思うのですが、
わたしのおばあちゃんが話してくれたのは、
こんなおはなし。
むかしむかし、あるところに、
それはそれはかわいらしい、ねずみのちゅーこちゃんがおりました。
ちゅーこちゃんのお父さんは、
かわいいかわいい娘のために
世界一のお婿さんを探してあげたいと思っていました。
◆
そこである日お父さんは、ちゅーこちゃんを連れて、
お日さまにお嫁入りのお願いに行きました。
お空を明るく照らしてくれるお日さまなら、
きっとちゅーこちゃんを幸せにしてくれる
世界一のお婿さんになるにちがいありません。
けれどもお日さまはこう言います。
「いいえ、いいえ、お父さん。
わたしよりも、雲さんのほうがずっとずっと立派ですよ。
私がお空を照らしても、雲さんが来れば隠れてしまうでしょう」
◆
そこでお父さんは、ちゅーこちゃんを連れて、
そのまま雲さんにお嫁入りのお願いに行きました。
暑さから守ってくれる雲さんなら、
きっとちゅーこちゃんを幸せにしてくれる
世界一のお婿さんになるにちがいありません。
けれども雲さんはこう言います。
「いいえ、いいえ、お父さん。
わたしよりも、風さんのほうがずっとずっと立派ですよ。
私がもくもく広がっても、風さんが来れば吹き飛ばされるでしょう」
◆
そこでお父さんは、ちゅーこちゃんを連れて、
こんどは風さんにお嫁入りのお願いに行きました。
季節を連れてきてくれる風さんなら、
きっとちゅーこちゃんを幸せにしてくれる
世界一のお婿さんになるにちがいありません。
けれども風さんはこう言います。
「いいえ、いいえ、お父さん。
わたしよりも、壁さんのほうがずっとずっと立派ですよ。
私がどんなに強く吹いても、壁さんはびくともしないでしょう」
◆
そこでお父さんは、ちゅーこちゃんを連れて、
おうちに帰ってくると壁さんにお嫁入りのお願いに行きました。
いつもどっしりと揺るがない壁さんなら、
きっとちゅーこちゃんを幸せにしてくれる
世界一のお婿さんになるにちがいありません。
けれども壁さんはこう言います。
「いいえ、いいえ、お父さん。
わたしよりも、ずっとずっと立派な、
娘さんにぴったりの、
世界一のお婿さんがいるはずですよ」
◆
それはいったい誰なんですか?
お父さんはびっくりして聞きました。
すると、壁さんは
「それはね、あなたたちねずみさんです。
ほらわたしのこの穴、見てください。
これはあなたたちが空けたものではありませんか」
それは他ならぬ、
ちゅーこちゃん一家のおうちでした。
◆
お父さんは思い出しました。
自分がお婿さんになったときのこと。
大切なお嫁さんと、
生まれてくるかわいいちゅーこちゃんのために、
がんばっておうちを作ったこと。
そして、
ちゅーこちゃんちのお隣には
仲良しのちゅーすけさんが住んでいること。
◆
こうしてちゅーこちゃんとちゅーすけさんは、
世界一のお嫁さんとお婿さんになりました。
お日さまと、
雲さんと、
風さんと、
壁さんに見守られて、
ふたりはいつまでもいつまでも、
幸せにくらしましたとさ。
おしまい。
昔話なので「お嫁さん」の考え方が現代とは違いますが、
わたしはこのお話好きです。
だってさ、なんといっても登場人物がみんなやさしい。
ねずみのお父さん含めみんな、
他の人のいいところをすぐ思い浮かべられるのがほんとに好きです。
わたしもこんな人になりたい。
自分よりも立派だなあと思う人がいて、
それを言葉にできるのがすでにすごいし、
その上で
「自分なんてどうせ…」とも
「あいつめ、うらめしい…」ともならない。
すごいよ。
さすが世界一のお婿さん候補だよ。
「さがしていたものは一番近くにあった」
というお話の類型は、
世界中にあるように感じますが、
ねずみのよめいりのお話は、
そこにたどりつくまでの道が
「ゆずりあい、認めあい」でできていることで、
自分の居場所をさらに大切に感じられる、
そんなお話な気がします。
「ただいま。はじめまして。」
・ゆず ・・・ 4 ・パチュリ ・・・ 1 ・スパイクラベンダー ・・・ 2 ・フランキンセンス ・・・ 3
お話を思い浮かべながらこの香りを組み立てるとき、
シンプルに四種類でつくると決めました。
おひさまと、
雲さんと、
風さんと、
壁さんに見守られて、
いつまでもいつまでも、
しあわせに暮らすふたり、
というラストが、とても美しいなあと感じたからです。
どことなく実家のような安心感、がありながら、
大切な人と手をつないで前に進んでいけるような
やさしくも明るい香りを目指しました。
太陽が生まれる日のきらきらゆずに、
しっとりと煙るようなパチュリ、
スパイクラベンダーは高原を駆け抜けるようにかろやかで、
フランキンセンスは静かに寄り添うよう。
それらは
まったく別の方向性に向かっているようでいて、
消しあうこともぶつかり合うこともなく、
ひとつの輪をつくっていきます。
おひさまと、
雲さんと、
風さんと、
壁さん、
という四人は、
なんとなくギリシャ医学の四体液・元素を思い出させて
そんな視点からのバランスも、ちょっぴり意識しました。
(厳密に対応させてはいませんが)
みんないいねを集めたら、 大きな輪になった帰り道。 ただいま。そして、 はじめまして。
そんな景色の、香りです。
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